第1回経済理論学会奨励賞授賞報告

 
第1回(2010年度)経済理論学会奨励賞授賞について

 第1回経済理論学会奨励賞選考委員会は、『季刊経済理論』掲載の18論文をふくむ総計21点の選考対象著作を検討し、

 吉原直毅会員の著作 『労働搾取の厚生理論序説』(単著、岩波書店、2008年)

を授賞候補著作として選定し、2010年10月21日、経過報告書および授賞理由書をそえて幹事会に具申した。幹事会は、経過報告、授賞理由を承認し、吉原会員の著作への授賞を最終決定した。翌22日の会員総会において、有井行夫選考委員会委員長が授賞理由を報告し、総会後の授賞式において代表幹事が賞状および副賞金一封を吉原会員に手渡した。

 授賞理由は以下のとおりである。

 この著作は数理的マルクス経済学の中心問題である搾取理論に関する系統的で本格的な研究である。従来の「マルクスの基本定理」は、レオンチェフ型の単純な経済体系ではその成立が十分に論証されてきたが、結合生産や代替的技術を考慮したより一般的な経済では必ずしも成立しないとして多くの論争が行なわれてきた。本研究は、置塩、森嶋、Roemer、Bowles=Gintis等の研究に依拠しながら、この問題に新しい視点から接近したものである。
 本研究の受賞理由としては、(1)マルクスの想定すべき市場均衡解を「再生産可能解」として定式化し、それと新古典派の「競争均衡解」、フォンノイマン=森嶋の「均斉成長解」との異同を示したこと,(2)代替的な労働搾取の概念を整理し、また新たな概念を提示することで、一般的な経済体系での搾取命題の有効性と限界を系統的に論じていること、(3) 独自の所得依存的搾取概念を採用することで、搾取命題が技術代替や結合生産を含む一般的な経済(一般的凸錘生産経済)でも成立することを示したこと、(4)労働搾取概念が資本制経済システムの特徴付けとしてどのような重要性を持つかを厚生経済的視点から検討した点等が挙げられる。
 論述方法も、集合論の手法を用いて、規範的な議論が詳細に展開されている点に特徴があり、さらに搾取、均衡、価値等の概念の資本制経済分析における意義や特徴が随所で論じられている点も興味深い。本書は今後のこの分野の研究において重要な文献となるであろう。

経済理論学会代表幹事 八木紀一郎