代表幹事就任のご挨拶

 河村 哲二(法政大学教授)    



 本年4月より新たに経済理論学会代表幹事に就任いたしました。経済理論学会は,1959年に発足以来,経済学(ポリティカル・エコノミー)の総合学会として,60年近い歴史を重ねて来た,政治経済学の有数の総合学会です。これまで,経済学の基礎理論から現代資本主義の現状の分析に及ぶ広範なテーマを,社会科学的に批判的な見地に立ちながら多角的に取り上げてきましたが,本学会の担うべき役割は,内外でますます重要性を増しています。また取り組むべき課題もまた大きなものがあります。私自身,入会以来40年,幹事として15年,うち2009年までの1期3年,事務局長を務めました。そうした経験を活かしながら,会員の皆様とともに,学会のいっそうの発展を図るべく努める所存ですので,よろしくお願いいたします。

 この間,とりわけこの20~30年間,グローバリゼーションと市場主義が顕著に進展するなかで,現代の経済社会・政治プロセスのあらゆる面で大きな変容と転換が促進されております。なかでも2008年秋からとみに深刻化した「百年に一度」のグローバル金融危機・経済危機が端的に示しているように,政治・軍事秩序,経済・社会システム,文化・思想など広範囲かつ世界的な規模で,現代資本主義は歴史的な一大転換期にあるといえます。同時に,世界的な富の偏在や経済格差の拡大,地球規模での環境問題,テロや内戦・崩壊国家など,グローバル資本主義の諸問題が地球大の規模で進行し,グローバル金融危機・経済危機は,まさにグローバル恐慌といってよい事態となりました。歴史的にきわめて異例の規模と質の政府機能の発動を通じて,かろうじて崩壊からまぬがれてはいるものの,反グローバリズム,新自由主義批判の高まりを伴って,むしろ現代資本主義は混迷を深め,行き詰まりの様相さえ呈しております。

 こうした事態に対し,現代の社会経済の諸問題の理論的・現実的解明は,どのような理論系譜にあるかを問わず,社会科学の喫緊の課題となっているといえます。しかし,こうした歴史の一大転換期には,対象とすべき諸問題が多面化,複合化し,それに対応して理論フレームワークや分析手法も多様化,分散化する。しかも,往々にして,社会科学的「知」の衰退や退廃が生じる。既存の思想や理念,原理が相対化し,既存パラダイムが色あせて,社会科学的「知」も現実の前にたじろぎ,往々にして混迷に陥る。一面では,新古典派のように現実から乖離して各種「モデル」構築をはかる道もある。あるいは,自然科学的認識や宗教的世界観による現実のアナロジー的分析や解釈の道もある。しかし,今,総合的に問われているのは,幅広い社会科学の流れとこれまでの連綿として蓄積されてきた研究の集積を基盤として,来るべき社会経済のビジョンを描きながら,現実の具体的分析と理論的再検討を加え,現実世界の社会科学的な総合的な認識と分析を確実なものにしてゆく,まさに社会科学的「知」の営為の重要性にあると考えております。

 経済理論学会は,60年近い歴史を重ねるなか,日本におけるマルクス経済学の分厚い蓄積を基盤としながら,政治経済学(ポリティカル・エコノミー)の総合学会として,資本主義の基礎理論から現代資本主義の諸問題の現実分析まで,広範なテーマの多角的な解明に取り組み,幅広い研究の集積を進めてきたといえます。その意味で,まさに社会科学的「知」の営為の「ハブ&プラットフォーム」として,こうした営為の中心的な役割を担うものであると考えております。

 しかし同時に,そうした基本ミッションに対し本学会が抱える課題や問題も実に大きなものがあります。そのため,当面重点的な課題として,主に以下の点に取り組む必要があると考えております。

 第1に,本学会の会員による理論・実態分析両面における「ハブ&プラットフォーム」機能を強化,拡充することはもとより,国内の隣接・関連学会との連携,さらには海外関連諸学会との連携をさらに強化することが必要と考えております。昨年の年次大会総会で前期幹事会より提案され,承認されておりますマルクス関連の記念イベント(2017年『資本論』150年,2018年マルクス生誕200年)としての国際シンポジウムを,創立60周年(2019年)記念事業の一環として実現していくことは,その重要な柱となるものと考えております。

 第2に,学会財務の確保と拡充が急務です。とりわけ,会費収入の漸減傾向は,会員数の減少傾向・会員の高齢化に伴い深刻化しつつあります。実際には,内・外学会との連携の拡充,『季刊 経済理論』の年4号体制の維持,若手の奨励賞,国際賞を含む国際交流と国際的プレゼンスの強化,大会に限らず各種国際シンポ等の推進には,なによりも財務基盤の強化と拡充が焦眉の課題となっております。そのためには,日常的には,経費の合理化につとめると同時に,会費納入の督励や会員の拡大の努力,さらには,学会活動強化基金の拡充などの追求が必要となります。とりわけ,この間,奨励賞,国際賞・英文論集などの国際交流強化を支えてきた第1回の募金による活動強化基金は,今年度でほぼ枯渇いたします。募金の再開が急務となっております。会員の皆様の幅広いご協力を賜りたく,お願いいたします。

 第3に,学会の研究活動をさらに活性化し,「ハブ&プラットフォーム」機能を大きく拡充し,あわせて会員の拡充をはかるために,地域別部会とは別に,会則がうたう常設の問題別分科会を組織し,幹事の皆様はもとより,若手を含め,各分野で枢要な位置にある会員の方々にも中心的な役割を担っていただく体制を整えたいと考えております。

 こうした課題への取り組みには,専門領域に立脚した,会員の皆様お一人お一人のご尽力が不可欠です。ぜひとも皆様とともに,経済理論学会のいっそうの発展と拡充を図りたいと思いますので,どうかよろしくお願いいたします。

2016年10月